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大阪高等裁判所 昭和61年(ラ)382号 決定

抗告人

斎藤國雄

買受人(申立人)

三井源一

主文

一  本件不動産引渡命令を取消す。

二  買受人の抗告人に対する本件不動産引渡命令の申立を却下する。

理由

一本件抗告の趣旨と理由は別紙のとおりである。

二当裁判所の判断

1  本件事件記録を調査すると次の事実を認めることができ、他にこの認定を動かすに足る証拠がない。

(一)  昭和五五年一〇月二日受付で本件建物につき林鐡雄(持分三分の一)、林享麿(持分三分の二)の共有登記がなされている(執行記録四七丁裏)。

(二)  昭和五八年八月一三日受付で同年七月一五日売買を原因として林亨麿から抗告人に対しその右持分全部の移転仮登記がなされている。(同記録四七丁裏)

(三)  抗告人は昭和五八年七月一五日から本件建物の二階六畳間部分を占有し、他の部分は同年一〇月一日に前川吉延に賃貸して間接占有をしている(同記録一〇二〜一一三丁)。

(四)  昭和五九年一月二〇日受付で本件建物につき債務者兼所有者、林享麿、所有者、林鐡雄とする担保権(抵当権)実行による本件競売開始決定に基づく差押登記がなされその効力が発生した(同記録四四丁裏、四五丁表)。

2  右認定の各事実に照らすと、抗告人は少なくとも前認定(四)の差押の効力発生前である前認定(二)の昭和五八年七月一五日右林享麿からその三分の二の持分権の移転を受け、かつ同年八月一七日その仮登記を了したものであつて、抗告人は右持分権の買主であり、前示債務者兼所有者でその売主でもある林享麿に対する関係で本登記未了のその三分の二の持分権による権原に基づき同年七月一五日から本件建物の二階六畳間部分を直接占有し、他の部分は同年一〇月一日から前川吉延に賃貸してこれを間接占有していることが明らかであり、しかも、民事執行法八三条一項所定の債務者でありかつこれと同視すべき所有者である林享麿の一般承継人ともいえないものである。

とすれば、抗告人は同条一項所定の「差押えの効力発生前から権原により占有している者」であつて、権原により占有している者でないとは認められないから、引渡命令の相手方とならないことが明らかである。

三結論

よつて、その余の判断をするまでもなく、民事執行法八三条所定の引渡の相手方に当らない抗告人に対してなした本件不動産引渡命令は違法であるから、これを取消し、買受人の本件不動産引渡命令の申立を却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官廣木重喜 裁判官諸富吉嗣 裁判官吉川義春)

抗告の趣旨

原決定を取消し、抗告人に対する明け渡しを棄却する裁判を求める。

抗告の理由

1 抗告人は本件建物の共有者林享麿との間で昭和五八年七月頃、本件建物全部につき転貸、譲渡自由の特約付で賃貸借契約を締結したものである。

2 また、加藤保は、本件建物の共有者林享麿の持分につき、昭和五六年一月一七日根抵当権及び賃借権設定の合意をなし、同月二〇日、根抵当権設定登記をなしたものである。

3 しかして、債務者林文雄は、昭和五八年六月頃、倒産したが、加藤は本件建物につき、賃借権を取得したので抗告人は加藤に対し、加藤が林文雄に対して有していた金五〇〇万円の債権について代位弁済して担保権及び賃借権の移転を受けたものである。

4 よつて抗告人は本件不動産競売事件の差押登記以前より賃借していたものであり、仮りに抗告人の賃借権が認められないとしても、抗告人は昭和五八年七月一五日売買を原因として同年八月一三日、林享麿持分全部の移転仮登記を受けているので、抗告人の占有は民事執行法第八三条一項の「差押えの効力発生前から権原により占有している者」に該当するから本引渡請求は棄却されるべきである。すなわち抗告人は、本件建物について所有権(共有持分三分の二)を権利者である林享麿から譲り受たものであるから、である。

5 又、抗告人が直接、占有使用しているのは、本件建物の二階部分であつて、一階及び三階部分は賃貸しているが、本件引渡命令は申立人に本件建物全部の引渡を命じており、違法であつて、取消を免れないと思料する。

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